補酵素と補助因子

酵素免疫生活

酵素の働きを助けるものとして、捕因子(補酵素と補助因子)の存在がありますが、ここでは主にビタミンの補酵素としての働きと、ミネラルの補助因子としての働きについて紹介しています。

ビタミンの補酵素としての働き

数多くあるビタミンの中でも、補酵素として働くのは、主にビタミンB群です。

 

ビタミンB1は、糖質の代謝に必要となる、ピルビン酸脱水素酵素、α‐ケトグルタル酸脱水素酵素、トランスケトラーゼといった酵素のの補酵素として働きます。

 

この中でも特に、ピルビン酸脱水素酵素は、ピルビン酸をアセチルCoAに変換させる大切な酵素です。アセチルCoAに変換できなければ、糖質(ブドウ糖)はエネルギーとして完全燃焼できないため、その補酵素のビタミンB1は重要な役割を果たしています。

 

 

ビタミンB2は生体内ではFMN(フラビンモノヌクレオチド)やFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)として存在していますが、このFMNやFMDが補酵素となる酵素はフラビン酵素です。そのフラビン酵素は生体内における代謝の様々な局面で、重要な酸化還元反応を触媒しています。

 

さらに、ビタミンB2は活性酸素を消去するグルタチオンペルオキシターゼの補酵素となって過酸化脂質の生成を防いでくれます。

 

 

ナイアシンはニコチン酸とニコチンアミドの総称ですが、ニコチンアミドは体内でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)と呼ばれる物質に変化し、代謝に必要となる脱水素酵素の補酵素として働くようになります。

 

また、ナイアシンは2000種類以上ある酵素のうち、500以上の酵素を助ける補酵素となっています。そして、その働きのひとつとして、アルコール代謝産物であるアセトアルデヒドの分解にも関与しています。

 

 

ビタミンB6は生体内ではピリドキサールリン酸(PLP)やピリドキサミンリン酸(PMP)の形で存在しており、アミノ酸のアミノ基を脱着させる酵素の補酵素として働きます。そのため、ビタミンB6はアミノ酸代謝の重要な役割を果たしています。

 

葉酸は生体内ではテトラヒドロ葉酸に変換され、核酸の成分であるプリン核や塩基のチミンを合成する酵素の補酵素として働いています。そのため、葉酸は細胞の分裂や増殖、成熟に不可欠の存在です。

 

パントテン酸は補酵素のコエンザイムA(CoA)の成分であるため、エネルギーの産生に寄与するほか、糖質や脂質の代謝にも深く関与しています。また、パントテン酸は140以上の酵素の補酵素として働き、さまざまな代謝やホルモンの合成などを正常に維持するのにも役立ってます。

 

ビオチンは糖代謝や脂肪酸合成に必要な酵素の補酵素になっています。特に糖新生の過程で、ピルビン酸をオキサロ酢酸へ変換するピルビン酸カルボキシラーゼという酵素の補酵素として重要な役割を担っています。

 

 

さらに、脂肪酸合成の過程では、材料となるアセチルCoAを変換させるアセチルCoAカルボキシラーゼという酵素の補酵素としても働いています。上記2つを含めた4つのカルボキシラーゼは「ビオチン酵素群」と呼ばれています。

補酵素として働くビタミンB群

名称 補酵素型 働く酵素 酵素の主な働き
ビタミンB1 チアミン二リン酸(TDP) ピルビン酸脱水素酵素、α‐ケトグルタル酸脱水素酵素、トランスケトラーゼ 主に糖質の代謝に関わる。
ビタミンB2 フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD) フラビン酵素、グルタチオンペルオキシターゼ  様々な代謝の酸化還元反応を触媒。活性酸素の消去。
ナイアシン ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP) 脱水素酵素、そのほか数多くの酵素  代謝に関わる。アセトアルデヒドの分解。
ビタミンB6 ピリドキサールリン酸(PLP) アミノ酸のアミノ基を脱着させる酵素  アミノ酸代謝の重要な役割を担う。
葉酸 テトラヒドロ葉酸(THF) プリン核や塩基のチミンを合成する酵素  細胞の分裂や増殖に関わる
パントテン酸 補酵素A(CoA) 数多くの酵素の補酵素  エネルギー産生や様々な代謝。特に糖質や脂質の代謝に深く関わる。
ビオチン ビオチン ピルビン酸カルボキシラーゼ、アセチルCoAカルボキシラーゼなどビオチン酵素群  糖新生や脂肪酸合成の過程に関わる。
補酵素と補助因子

補助因子としてのミネラルの働き

マグネシウム

 

マグネシウムは多数の酵素の補助因子として働く大切なミネラルです。なかでも細胞膜の能動輸送に欠かせないATPアーゼは、マグネシウムと結合しなければ、イオンポンプの酵素が機能しません。そのため、細胞内外のイオン濃度の均衡を保っているマグネシウムは、筋肉の弛緩作用や神経伝達作用などに関わるイオンポンプの機能に対して重要な役割を担っています。

 

 

亜鉛

 

亜鉛は、炭酸脱水酵素、乳酸脱水素酵素、カルボキシペプチターゼ、アルカリフォスファターゼなど、多くの酵素の補助因子になっています。また、生体内での200種類以上の酵素反応に関与していると言われています。さらに、細胞を攻撃してサビつかせる活性酸素を消去する抗酸化酵素、「スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)」の成分としても重要な役割を担っています。

 

 

 

銅は約10種類ある銅依存性酵素の活性中心に結合し、様々な生理作用をもたらすとされています。また、過酸化脂質の増加の原因になる活性酸素を消去する抗酸化酵素、「スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)」の成分としても重要な役割を果たしています。

 

 

マンガン

 

マンガンは、糖新生に不可欠な酵素、ピルビン酸カルボキシラーゼをはじめとする様々な酵素の補助因子として働いています。それに加え、尿素回路の最後で、アルギニンを尿素とオルニチンに分解するアルギナーゼという酵素の補助因子としても不可欠です。他にも、抗酸化酵素スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の補酵素として抗酸化に寄与しています。

 

 

セレン

 

セレンは抗酸化酵素のひとつであり、過酸化水素を酸素と水に分解する「グルタチオンペルオキシターゼ」の補助因子として体内の過酸化物質から細胞を守っています。そのほか、サイロキシンをトリヨードサイロニンに変換するヨードチロニン脱ヨウ素酵素の成分として、甲状腺ホルモンの活性化にも寄与しています。

 

 

クロム

 

ク ロムはインスリン受容体のチロシンキナーゼ活性を増強して、グルコースを細胞内へ取り込むグルコーストランスポーターを細胞膜上に発現しやすくしています。 また、インスリン作用を増強するクロモデュリン(三価クロムイオンが結合したオリゴペプチド)は、脂肪細胞の細胞膜にあるホスホチロシンホスファターゼを活性化する働きがあります。そのため、クロムは脂質代謝にも関わっています。

 

 

モリブデン

 

モリブデンは核酸の代謝におけるプリン体の分解過程で働いているキサンチンオキシターゼという酵素の補助因子として働いています。キサンチンオキシターゼはキサンチンを尿酸へ変換する酵素であるため、生体内で非常に重要な役割を担っています。それに加え、モリ ブデンはアルデヒドオキシターゼや亜硫酸オキシターゼの成分であるため、有害なアセトアルデヒドや亜硫酸の無毒化にも関わっています。そのほか、 NADPHオキシターゼの成分でもあり、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生にも関与しています。

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